偶然迷い込んだ子犬が、雑種化により姿を消しつつある”純血”のディンゴだった

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オーストラリア南東部にあるビクトリア州の小さな町に迷い込んだ一匹の子犬。家の裏庭で見つかったというその子犬は、純血のディンゴであることが分かった。


Dingo flickr photo by traceyodea shared under a Creative Commons (BY) license

オーストラリアの野犬「ディンゴ」

ディンゴはオーストラリアに生息する野生イヌで、一見するとただのイヌに見えるが、ピンと立った三角のとがった耳や、細くしなやかだが強靭な四肢、長く垂れ下がった大きな尻尾など、体の随所にはタイリクオオカミの特徴や風貌が垣間見える。体重は10~15kg程度で、赤みがかった体毛を持ち、単独または群れを作って生活する。

ディンゴの分類学的な位置づけはまだ確立されておらず、タイリクオオカミの亜種であるとする学説と、独立した種であるとする説で大きく分かれている。オーストラリアにある大学の合同研究チームが2019年3月に発表した論文では、ディンゴはイエイヌやオオカミとは異なる多くの特徴があり、オーストラリアという地理的に隔絶された環境で、歴史的に家畜化された確かな証拠が無いことなどから、ディンゴを独立した種であると結論付けている。


Dingo flickr photo by PaulBalfe shared under a Creative Commons (BY) license

オーストラリアでは、ディンゴは家畜などを襲う害獣と見なされており、不用心な観光客や幼児を襲撃するケースも珍しくない。2019年4月には、オーストラリアのフレーザー島のディンゴが、キャンピングカーの中にいた1歳児を連れ去ろうとしているところを父親が発見し、ディンゴを追い払って救出するという出来事があった。赤ちゃんは深い傷を負ったが、救急ヘリコプターで病院へと運ばれ、一命を取り留めたという。

これまで厄介扱いされてきたディンゴであるが、近年になってその重要性が見直されつつある。現在のオーストラリア大陸に生息しているディンゴは今から約3,000~4,000年前に人間と共にアジアから渡来してきたものと考えられているが、のちに渡来してきたイエイヌとの交雑が進み、種としての”ディンゴの絶滅”が懸念されているのだ。

ディンゴ・ハイブリッドの増加

イエイヌとディンゴの雑種はディンゴ・ハイブリッド(Ding hybrids)または単にワイルド・ドッグ(Wild dog)と呼ばれ、オーストラリアに生息するディンゴの大半はこの雑種化したディンゴ・ハイブリッドだ。現在、純血のディンゴはフレーザー島などのごく一部の地域に限られているという。

ハイブリッド・ディンゴは、当然ながらイエイヌやディンゴの性質を併せ持っており、身体能力が高いうえに病気にも強く、優れた適応能力で生息域を徐々に拡大させつつある。このように、ハイブリット・ディンゴの増加によって交雑は加速度的に進行してしまうため、純血ディンゴの保全活動や雑種化の抑制が急務となっているのだ。

迷い込んだ一匹の子犬

2019年8月、民家の裏庭に迷い込んだ1歳にも満たない仔犬を家主が発見した。仔犬は大型猛きん類に襲われたとみられる引っかかれた傷があり、家主はすぐ動物病院へと連れて行った。
近隣で活動しているオーストラリア・ディンゴ基金の責任者であるリン・ワトソン氏は、この子犬がディンゴであるという話を聞きつけて病院と連絡を取り、保護することになった。

保護された「ワンディ」。

リン・ワトソン氏は、「ワンディ」と名付けられたこのディンゴの遺伝子サンプルをニューサウスウェールズ大学に送って調べるように病院に依頼。その後に送られてきた調査結果には、ワンディが100%純血のディンゴであったことが記されていた。リン・ワトソン氏のディンゴ保護活動チームは歓喜に沸いたという。交雑化が深刻化している今、人やイヌが多く住むような町で純血のディンゴが見つかることは非常に稀なケースだ。

現在、ディンゴの純血種は絶滅危惧種Ⅱ類(危急)に指定されており、このような純血種を発見・保護することが最優先事項となっている。ディンゴの子ども「ワンディ」がどこで生まれ、どのようにして裏庭で見つかることになったのかは不明だが、本来あるべき姿を受け継いだこの子とその子孫を、私たちは守り抜き、そして繋ぎ止めなければならない。

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