医学

アマゾンで暮らしている先住民、世界で最も認知症が少ない可能性

南米のアマゾンで暮らしている原住民が、世界で最も認知症が少ないのではないかという研究成果がアメリカ・南カリフォルニア大学により発表され、今月9日に『Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association』に掲載されました。

南米ボリビアのアマゾンで現在も自給自足の生活で暮らしているチマネ族は人口約1万7,000人の民族で、狩猟や採取などを行って生活しています。

一方で人口約3,000人のモセテン族はチマネ族よりも街に近い方で暮らしており、水道設備や医療サービスなども利用可能で、学校もあるため識字率が高いといいます。

▽チマネ族の人々。

Youtube 『We Are What We Eat: Bolivia | Nat Geo Live』より

研究者らはこの2つの民族の60歳以上の高齢者を対象に認知症のスクリーニングテスト「ミニメンタルステート検査」や文化に関するインタビュー、ときに頭部CTを用いた画像検査などを行って認知機能を調べました。

その結果、認知症と判定されたのはチマネ族では435人中5人(有病率1.2%)、モセテン族では169人中1人(有病率0.6%)で、いずれも患者は80歳以上であったといいます。

アメリカにおける65歳以上の認知症有病率は約11%、日本においては厚労省によると約16.7%と報告されており、この差について論文の特筆者は「産業革命以前の生活における何らかの要素が認知症から保護しているのかもしれない」と述べています。

Reference:Study: Some of the world’s lowest rates of dementia found in Amazonian indigenous groups

1週間に1時間の筋トレで病気や死亡のリスク減少、ただし2時間以上でリスク増大の可能性

東北大学をはじめとする研究者らは、週に30~60分の筋肉トレーニングによって病気や死亡のリスクを減らせる一方で、週140分以上の筋肉トレーニングで逆にリスクが高まる可能性があることを明らかにしました。

筋トレ(筋肉トレーニング)は文字通り、筋肉量および筋力の向上を目的とした運動のことです。近年は新型コロナウイルス感染症の流行を受け、自宅でも簡単にできる運動として筋トレをはじめる人々が増えていますが、筋肉をつける以外にもどのように健康に影響を与えているのかよく分かっていませんでした。

東北大学、早稲田大学、九州大学の研究者らは、これまでに公表された1,252件もの研究結果を収集して分析した結果、筋トレを実施すると心血管疾患やがん、糖尿病、総死亡のリスクは10~17%減少し、これらは週30~60分の筋トレで最も効果的であったといいます。

ただし、週130分~140分以上の筋トレを行うと、糖尿病以外ではリスク低下の効果がなくなるばかりか、逆にリスクが増大することも新たに明らかになりました。

リスク低下が最大となる週60分という時間は、毎日の隙間時間でも十分に行えるので、日頃の運動に加えて始めてみると良いかもしれません。

逆に、リスクが上昇しはじめる週130分~140分以上という時間は、1日あたりに換算すると20分以上、週末の2日間で行うと1日あたり1時間以上なので、もしかしたら「ぜんぜん物足りない」と驚く人もいるかもしれません。

あくまで無理のない範囲で続けていきましょう。

※ここでの「筋肉トレーニング」は、”レジスタンストレーニング、ウェイトトレーニング、自重トレーニングなど、筋肉に繰り返し負荷がかかり、筋力の向上が期待される活動”すべてが含まれます。

Reference:ムキムキを目指すだけが筋トレではない。 筋トレで死亡・疾病リスクが減少 週30~60分を目安に – 東北大学

スペインの子ども17人が全身から体毛が生える「多毛症」になる、原因は意外なもの


flickr photo by brooklyn shared under a Creative Commons (BY-SA) license

スペインで、ある奇妙な出来事があった。各地に住む17人の子どもに次々と全身から毛が生えてきたのだ。いわゆる多毛症と呼ばれるこの病気は、通常は伝染することはない。なぜ、子どもたちは同時多発的にこの病気にかかってしまったのだろうか?

多毛症は、何らかの原因によって全身あるいは一部の体毛が過剰に生えてしまう病気だ。男性ホルモンの過剰な分泌によるものや、がんなどの重篤な病気によって引き起こされるものがあり、稀ではあるが先天的な異常によって全身を覆うほどの体毛が生えた症例も報告されている。

今回の異常事態を受け、スペインの行政機関が状況を詳しく調べたところ、ある事実が明らかとなった。多毛症の症状が現れた子どもたちは全員、オメプラゾールという同じ胃薬を服用していたのだ。当局がこの胃薬について詳しく調査したところ、実はオメプラゾールではなく、ミノキシジルという薬であることが明らかになったという。

もしかしたら、一部の人はよくご存じかもしれない。ミノキシジルは、発毛効果があることで知られる発毛剤なのだ。どういうわけか、スペイン南部のマラガにある製薬会社の工場で、ミノキシジルがオメプラゾールと記載されたケースに誤って梱包され、そのまま薬局へと運ばれていたという。子どもたちの全身から体毛が生えた原因は、ミノキシジルによるものだったのだ。

このミノキシジルは外用薬、つまり皮膚につける薬ではないのか?と思うかもしれないが、もともとミノキシジルは高血圧を治療するために開発された内用薬だ。ミノキシジルには血管を拡張させる作用があるため、従来までは血圧を下げる降圧剤として利用されてきた。ところが、副作用として全身から体毛が生える症状が現れたことから、その後は発毛剤および脱毛症の治療薬として使用されることとなったという。

ミノキシジルの発毛のメカニズムについては未だに詳しくは明らかになっていないが、毛組織の血流を改善させ、発毛に関連する細胞を活性化させる効果があるとされている。また、現在でも薬剤の効きにくい重病患者の高血圧治療には、最終手段としてこのミノキシジルが使用されることもあるという。

問題のあった薬は回収され、製薬会社は一時的に操業を停止している。薬品の取り違えは生命に関わるような重大な事故だ。降圧剤としても使用されるミノキシジルは、特に子どもが服用すると場合によっては重篤な副作用が生じる恐れがある。取り違えがあった原因は不明とのことだが、消費者からすれば防ぎようのない事態であるだけに、原因の究明と徹底した再発防止策が求められる。

[alert title=”エピネシス・コラムズ”]
・発毛作用のあるミノキシジルには経口薬もありますが、髪だけでなく全身の毛が濃くなってしまう副作用があるため注意が必要です。[/alert]

12歳の少女が「人喰いバクテリア」に感染、緊急手術で一命を取り留める

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2019年6月、アメリカのフロリダ州で12歳の少女が”人喰いバクテリア”に感染し、緊急手術を受けて一命を取り留めた。この恐ろしいバクテリアに感染してしまったのは、インディアナ州在住のカイリー・ブラウンさん。2019年6月に家族でフロリダ州のデスティンに訪れ、ビーチで遊んだ翌日に最初の異変が現れた。

カイリー・ブラウンさんの右足ふくらはぎが痛みだしたのだ。家族は足の痛みを筋肉痛や足がつったものと考えてそのまま旅行を続けたが、翌日に痛みはさらに増して歩けないほどにまで悪化したという。家族がインディアナ州に戻る途中で主治医に相談したところ、すぐに医療機関を受診するようにとの指示があり、小児病院へ連れて行ったところ「壊死性筋膜炎」と診断され、すぐに緊急手術を受けることになった。

壊死性筋膜炎とは?

なんらかの理由によってできた傷口から”人喰いバクテリア”による細菌感染が起きると、感染した皮膚の血管に微小な血栓ができて、組織に栄養が流れなくなるために組織が壊死してしまう。
そうなると、本来は血液によって運ばれてくるはずの免疫細胞や、細菌が苦手とする酸素が届かなくなってしまうため細菌感染が急速に広がっていくのだ。特に、筋肉を覆っている筋膜に沿って壊死が広がっていくものを壊死性筋膜炎といい、こうなると事態は一刻を争う。細菌が血液に侵入して全身に流れる前に患者は壊死した部分を取り除く手術と抗菌薬による治療を速やかに受ける必要があるのだ。

ある程度進行してしまった壊死性筋膜炎は適切な治療を行っても死に至る可能性がある。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、壊死性筋膜炎を発症した人の3人に1人は命を落としてしまうという。
医師らは速やかに緊急手術に踏み切って感染部を切除、抗菌薬を静脈内に投与してカイリー・ブラウンさんは一命を取り留めた。

人喰いバクテリア

カイリー・ブラウンさんを襲った、皮膚の壊死性感染症を引き起こすような細菌は俗に”人喰いバクテリア”と呼ばれている。レンサ球菌属やクロストリジウム属、ビブリオ属などいくつかの種類が知られており、身体に傷がある状態で海や川などの水辺、プールや温泉などに入ったり、傷口を土などで汚してしまうことでこれらの菌が傷口から侵入することがあるのだ。実は、カイリー・ブラウンさんも、フロリダを出発する前にスケートボードで足に傷を負っていたようだ。

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”人喰いバクテリア”として悪名高いビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)。

”人喰いバクテリア”に感染し、皮膚の壊死が生じた場合は速やかに処置を行わなければならない。傷口から感染した場合の死亡率は約20%ほどであるが、これらの細菌が血液に入り込んだ場合の死亡率は50%以上となり、死亡率が急激に上昇する。少しの判断の遅れや処置の仕方によって、患者の運命が大きく左右されるのだ。

2016年に足の小さな傷から”人喰いバクテリア”の感染を起こしたマイケル・ファンクという人物は、カイリー・ブラウンさんよりも早く異変に気付き、病院で壊死した皮膚を切除したにも関わらず、細菌はすでに血管に入り込んでいたため病変部分が急速に拡大、感染した足の切断という大手術に踏み込んだにも関わらず、敗血症によって数日後に死亡した。さらに同年では、59歳の男性が足首の傷から”人喰いバクテリア”の感染を起こし、48時間で死亡しているという。

このような人喰いバクテリアの感染は「よくあること」ではないが、もし感染してしまった場合は一刻を争う事態へと発展してしまう。大したことのない傷だからといって処置せずそのまま放置したり、ましてやそのまま海や川などで遊んだりすることは絶対に避けるべきだろう。