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2019年6月、アメリカのフロリダ州で12歳の少女が”人喰いバクテリア”に感染し、緊急手術を受けて一命を取り留めた。この恐ろしいバクテリアに感染してしまったのは、インディアナ州在住のカイリー・ブラウンさん。2019年6月に家族でフロリダ州のデスティンに訪れ、ビーチで遊んだ翌日に最初の異変が現れた。

カイリー・ブラウンさんの右足ふくらはぎが痛みだしたのだ。家族は足の痛みを筋肉痛や足がつったものと考えてそのまま旅行を続けたが、翌日に痛みはさらに増して歩けないほどにまで悪化したという。家族がインディアナ州に戻る途中で主治医に相談したところ、すぐに医療機関を受診するようにとの指示があり、小児病院へ連れて行ったところ「壊死性筋膜炎」と診断され、すぐに緊急手術を受けることになった。

壊死性筋膜炎とは?

なんらかの理由によってできた傷口から”人喰いバクテリア”による細菌感染が起きると、感染した皮膚の血管に微小な血栓ができて、組織に栄養が流れなくなるために組織が壊死してしまう。
そうなると、本来は血液によって運ばれてくるはずの免疫細胞や、細菌が苦手とする酸素が届かなくなってしまうため細菌感染が急速に広がっていくのだ。特に、筋肉を覆っている筋膜に沿って壊死が広がっていくものを壊死性筋膜炎といい、こうなると事態は一刻を争う。細菌が血液に侵入して全身に流れる前に患者は壊死した部分を取り除く手術と抗菌薬による治療を速やかに受ける必要があるのだ。

ある程度進行してしまった壊死性筋膜炎は適切な治療を行っても死に至る可能性がある。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、壊死性筋膜炎を発症した人の3人に1人は命を落としてしまうという。
医師らは速やかに緊急手術に踏み切って感染部を切除、抗菌薬を静脈内に投与してカイリー・ブラウンさんは一命を取り留めた。

人喰いバクテリア

カイリー・ブラウンさんを襲った、皮膚の壊死性感染症を引き起こすような細菌は俗に”人喰いバクテリア”と呼ばれている。レンサ球菌属やクロストリジウム属、ビブリオ属などいくつかの種類が知られており、身体に傷がある状態で海や川などの水辺、プールや温泉などに入ったり、傷口を土などで汚してしまうことでこれらの菌が傷口から侵入することがあるのだ。実は、カイリー・ブラウンさんも、フロリダを出発する前にスケートボードで足に傷を負っていたようだ。

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”人喰いバクテリア”として悪名高いビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)。

”人喰いバクテリア”に感染し、皮膚の壊死が生じた場合は速やかに処置を行わなければならない。傷口から感染した場合の死亡率は約20%ほどであるが、これらの細菌が血液に入り込んだ場合の死亡率は50%以上となり、死亡率が急激に上昇する。少しの判断の遅れや処置の仕方によって、患者の運命が大きく左右されるのだ。

2016年に足の小さな傷から”人喰いバクテリア”の感染を起こしたマイケル・ファンクという人物は、カイリー・ブラウンさんよりも早く異変に気付き、病院で壊死した皮膚を切除したにも関わらず、細菌はすでに血管に入り込んでいたため病変部分が急速に拡大、感染した足の切断という大手術に踏み込んだにも関わらず、敗血症によって数日後に死亡した。さらに同年では、59歳の男性が足首の傷から”人喰いバクテリア”の感染を起こし、48時間で死亡しているという。

このような人喰いバクテリアの感染は「よくあること」ではないが、もし感染してしまった場合は一刻を争う事態へと発展してしまう。大したことのない傷だからといって処置せずそのまま放置したり、ましてやそのまま海や川などで遊んだりすることは絶対に避けるべきだろう。